駅へ向かう坂道のガードレールから下を覗くと、中学校の校舎が見える。
防錆塗装の剥がれた体育倉庫の影に幽霊が居た。
僕はその、陸上部員たちを見つめる窶れた男から目を逸らす。
彼は僕の隣で楽しそうに手を振った。
住宅と林に挟まれた生活道路は、午後になると木漏れ日の心地良い散歩道になる。
シャッターの開いた空のガレージの奥に幽霊が居た。
僕はその、煤けた長い髪で顔を隠す少女から目を逸らす。
彼は僕の隣で嬉しそうに手を振った。
自動車教習所の側にある捻れた交差点では、停止線を守る車はひとつも見当たらない。
コンビニの室外機と灰皿の間に幽霊が居た。
僕はその、自己犠牲の成れの果てに立つ老人から目を逸らす。
彼は僕の隣で可笑しそうに手を振った。
駅に近づくと、自動改札機の電子音が聞こえてくる。
街は生きた人々が行き交わなければ死んでしまう。
彼は親しげに顔を寄せて、不幸な話をしたがる。
僕は彼が期待するような信心深さは持ち合わせていない。
駅員室と券売機の奥の暗がりで、学生服の二人が抱き合っていた。
「かわいそうだね」と呟く彼の声に笑みを浮かべ、
僕は黙って改札を通り抜けた。