花見をするなら雨の日の夜に限る。
真っ暗な公園の、街灯に照らされた桜が
枝をしならせて僕の頭上を覆う。
それは大きな手の様だ。
この暗闇から守ってくれるような。
風に吹かれて散った花弁が
ビニール傘に落ちて貼り付く。
普段の自分なら神経に障るだろう
この感触も今なら許せてしまう。
雨も、桜も、本当は嫌いだ。
それが、こんな静かな夜に出会したと言うだけで
僕の感性を簡単に裏切ってしまう。
こんな惰性が、この世界を堕落させたのだ。
日が昇り、この雨が止めば
落ちた花弁が血溜まりの様に
そこかしこに広がるのだろう。
やがてそれは、乾いた風に運ばれて
過ぎ去って行く。
僕は少し見上げて、枝越しに暗い空を見た。
霞んだ視界の中で咲き乱れる桜は
まるで蝶の群れの様だった。