#IKA03 桜

花見をするなら雨の日の夜に限る。

 

真っ暗な公園の、街灯に照らされた桜が

枝をしならせて僕の頭上を覆う。

それは大きな手の様だ。

この暗闇から守ってくれるような。

 

風に吹かれて散った花弁が

ビニール傘に落ちて貼り付く。

普段の自分なら神経に障るだろう

この感触も今なら許せてしまう。

 

雨も、桜も、本当は嫌いだ。

それが、こんな静かな夜に出会したと言うだけで

僕の感性を簡単に裏切ってしまう。

こんな惰性が、この世界を堕落させたのだ。

 

日が昇り、この雨が止めば

落ちた花弁が血溜まりの様に

そこかしこに広がるのだろう。

やがてそれは、乾いた風に運ばれて

過ぎ去って行く。

 

僕は少し見上げて、枝越しに暗い空を見た。

霞んだ視界の中で咲き乱れる桜は

まるで蝶の群れの様だった。