#IKA02 月

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

一瞬、ここは何処かと焦ったが

窓外を流れるオレンジ色の景色を見て溜息を吐く。

 

左肩の温もりに視線を遣ると

目を瞑った彼が寄り掛かっていた。

おそらく意識はある。

けれど、身を起こす気は無いらしい。

 

再び窓外に目を向けると、橋を渡るところだった。

景色はひらけて、水面の反射が美しかった。

 

このまま、どこまでも行けそうな気がする。

そう嘯く心に小さな針が刺さる。

彼とふたりでなら何も怖くない。

僕は彼がいちばん怖い。

 

橋を渡り終え、ビルの間へと吸い込まれた。

少し暗くなった車内に明かりが点く。

白くなった視界からはドライアイスの匂いがした。

 

左肩はまだ温かい。

夜の足音を聞きながら、ぼんやりと瞼を重くする。

瞼の裏には月が見えた。